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図で考える進路
第二回 人生鳥瞰図は何度も書き直そう

人生鳥瞰図は「埋めたら終わり」ではない

久恒啓一教授

 前回は、皆さんに「人生鳥瞰図(じんせいちょうかんず)」を紹介しました。「人生鳥瞰図」とは、鳥のように高い視点で人生を見て、これまでの自分を振り返って、将来進んでいく道を考えようというものでしたね。この「人生鳥瞰図」は大きく分けて3つのパートに分かれています。自分が何を大切にしているかを明らかにする「価値観発見パート」、自分がどんな職業に向いているのかを明らかにする「適職発見パート」、そしてこれからとこれまでのキャリアデザインを含んだ「ライフデザインパート」の3つです。
 皆さんは実際にワークシートに書き込んでみたでしょうか。自分自身を深く見つめ直し、これからどう進んでいくかを考える作業ですから、簡単ではなかったと思います。また「とりあえず全項目埋めてみたけど、これでいいのかなぁ?」という人もいるのではないでしょうか?
 この「人生鳥瞰図」を書く上で大切なことは、図の中にある項目一つひとつをじっくり考えながら記入し、すべてを書き終えたら、もう一度最初から見直してみることです。皆さんが生まれて、16年から18年経っていますね。生まれてから今に至るまでの人生を振り返って、本当に抜けていることがないかどうか、確認してみましょう。記入するスペースがせまければ、拡大コピーしてもかまいません。別の紙に書き出してみてもかまいません。何度も何度も考えて、自分の将来を考えてみましょう。
 これから「人生鳥瞰図」を見直すポイントを3つあげて、どんな風に見直したらより良くなるのかということを、もう少し詳しく説明していきたいと思います。

どんな小さなことでもいいので書き出してみる

 1つ目のポイントは「どんな小さなことでもいいので書き出してみる」ということです。例えば、「適職発見パート」の「能力」の部分ですが、よく見られるのは持っている資格を書き出して終わり、というパターンです。「漢字検定3級」ではなく、例えば「文章を書くのがうまい」「テニスが得意」「料理が上手」など、「私はこれだったら自慢できる」「これは家族の中で一番得意」「これはクラスで一番できる」というものを何でもいいのでたくさん書き出してみましょう。資格になっていなくても、自分が得意とすることはたくさんあるはずです。

書き出したものを“具体的”にして、“理由”などを思い出す

 2つ目のポイントは「書き出したものを "具体的"にして、"理由"などを思い出す」ということです。例えば「適職発見パート」の「関心」の部分について、「読書」と一言書いたとします。見直すときには、「どんな本が好きなのか」「誰の本が好きなのか」を考えてみましょう。「参考書を読むのが好き」という人と「漫画を読むのが好き」という人、「小説を読むのが好き」という人では、ずいぶんと関心分野が異なるように聞こえますね。また、なぜそれが好きになったのか、理由も考えてみましょう。「新しい知識を増やしたいから」「心をリラックスさせたいから」「現実とはちがう世界に没頭したい」と、理由を挙げても関心分野がそれぞれに違います。一言で書き表すことも大切なのですが、なぜ自分がそれを書き出したのか、またその書き出した項目は具体的に何をさしているのかを考えてみることが大切です。

他の人の意見も聞いてみる

 最後は、「他の人の意見も聞いてみる」ということです。「価値観発見パート」の「生い立ち」の部分などは家族に聞いてみましょう。「二人姉妹の妹」「きびしい両親」と自分自身で思う生い立ちを書き込んでみても、生まれたときの自分がどんな子どもだったのかは思い出せません。思い出せないときは家族や親戚に聞いてみましょう。また、生まれたときの時代背景が生い立ちに大きく影響していることもあります。生まれた時代に何があったのかを調べてみてもいいでしょう。
 「適職発見パート」の「性格」については、自分で思っている自分の性格を書き出すことも重要ですが、他の人が自分についてどう思っているのかを知ることも大変重要です。家族や友人、先生、先輩に自分の性格はどうなのかを聞いてみると、案外自分が思っている自分とはまた違う自分を発見できるかもしれません。
 このように、皆さんのキャリアは、皆さんが考えている以上に深みや広がりがあり、皆さんは毎日キャリアを深め広げているのです。

 今回は「価値観発見パート」について説明します。ワークシートもついていますので、ぜひチャレンジしてください。

自分はどんな人間なのかを知るための「価値観」

 前回紹介したように、人生鳥瞰図は3つのステップを踏みます。まずは価値観発見パートで「価値観の発掘」、続いて適職発見パートで「適職・天職の選択」。ここまでが「人生テーマの発掘」となり、この結果を参考に「ライフデザインの構築」を行います。今回から第4回までにわたって、それぞれについて詳しく説明をしていきます。今号では、最初の価値観発見パートによる「価値観の発掘」について見ていきましょう。
 価値観とは、「自分にとって人生で最も大切なものは何か」ということです。それは、人によって「ゆとりのある生活をしたい」という人もいれば、「有名になりたい」という人、「健康を大切にしたい」「コミュニケーションを大切にしたい」…さまざまなものが挙げられます。
 それでは、いったい価値観とはどのようにして形成されたものなのでしょうか。それを考えれば、自分という人間がもっとはっきりとわかってくるはずです。

自分の過去の経験を思い出してみよう

 価値観、つまり物の見方や考え方は、人の成長の過程で自然と身に付いたものでしょう。そうであれば、成長過程を詳しく見ていけば、自分の価値観も見えてくるはずです。そこで、3つのキーワードを手がかりに、自分の過去を考えていくことにします。
 まずは「生い立ち」。家族、家庭環境、地域環境、家庭の経済事情、時代背景など、幼い頃の生い立ちは、その人の人格形成に大きな影響を与えます。まず、ここをしっかりと思い出して、そこから何を得たのか考えてみましょう。
 続いて「出来事」です。自分が強い影響を受けた出来事を思い出してください。このとき「5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)」を使って詳細に思い起こしてください。
 そして「出会い」です。人生には、人、本、言葉など、さまざまな出会いがあります。あなたの印象に残っている出会い、影響を受けた出会いを思い出してみましょう。

自分の価値観を見出してみよう

 「生い立ち」「出来事」「出会い」の分析によって、大まかに自分という人間を理解することができます。人生において、自分は経済的な豊かさを求めているのか、精神的な豊かさを求めているのか、あるいは時間的な豊かさなのか、人との豊かなコミュニケーションなのか…。もちろん、これらのうち「これだけが私の大切にしたいもの!」と決められるものではなく、「あれも大事、これも大事…」と複数を大切にしたいと思う気持ちもあります。しかし、そこには優先順位があるはずです。
 このような点に気を付けながら、自分の価値観を導き出していきましょう。

 それでは、下の例を参考に図を書いてみてくださいね!

価値観の発掘の仕方


あなたも「価値観の発掘」にチャレンジ

 価値観の発掘の仕方ワークシート
 (クリックするとPDFファイルが開きます。)


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プロフィール
久恒啓一教授
宮城大学教授 
宮城大学大学院事業構想学研究科長 
昭和25年大分県生まれ
九州大学法学部卒業(クラブ活動は探検部)
昭和48年日本航空株式会社入社、ロンドン空港支店、客室本部労務担当等を経て、本社広報課長、サービス委員会事務局次長を歴任。ビジネスマン時代から「知的生産の技術」研究会(現在はNPO)に所属し著作活動も展開。
日本航空を早期退職し、平成9年4月新設の宮城大学(野田一夫学長)教授に就任。学生とともに成長する教育者、地域とともに歩む研究者、県立大学教授とし ての社会貢献という3つのテーマで活発に活動している。著作や雑誌への寄稿や講演など全国区で活躍する一方、宮城県では多数の審議会・委員会の委員、 NPO法人キャリア開発研究機構理事長、NPO法人知的生産の技術研究会理事長をつとめるなど地域活性化にも関心が深い。(財)日本総合研究所(寺島実郎 理事長)評議員。本年度より中国・吉林大学客員教授を兼務。
久恒啓一図解ウェブ http://hisatune.net/