ホーム図で考える“進路”>第一回 人生鳥瞰図の作り方
図で考える進路

悩んでいることを図にしてみよう

久恒啓一教授

 高校生の皆さんにとって、目下の悩みは「進路」ですよね。高校を卒業後、進学するか、就職するかという大まかな進路だけではなく、自分が将来どのようなことをしたいか、そのために何をすべきかと、日々自分自身と向き合いながら悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
 そのような悩みの解決の糸口として、私は「図を描く」ことによって考えを整理することをおすすめしています。
 図を描いて、自分の将来について考えることをおすすめするのは、次の理由からです。
 ひとつは、悩んでいる問題の全体像が明らかになることです。また、問題がどのような要素で成り立っているのか、その要素同士の関係もわかります。つまり、「今の状況がどうなっているのか」が一目で分かるようになります。他の人に一生懸命説明した上でアドバイスをもらわなくても、図を描くことを通して、自分自身で問題を解決できるようになるのです。
 もう一つの理由は、図で考えると感情的にならずに済むことです。悩みを抱えていると、どうしても感情的になってしまい、自分の気づかないところで視野が狭くなってしまうことが多いのです。図を描いてみると悩んでいる問題の全体像が見えるので、狭くなっていた視野も広くなります。
 進路について親や先生と話し合ったとき、うまくいかない場合もあります。「無理矢理説得された」と思うこともあるでしょう。図を使うと、悩んでいる要素をすべて見せて「この部分はどうしていけばいいか」と話し合うこともできますね。お互い納得しながら、冷静に解決することができます。
 図解には、このように魔法のような力があるのです。進路で悩んでいるときこそ、図を積極的に活用して下さい。そして、抱えている悩みをすっきり解決してください。

図を描くと人生のイメージが見えてくる!

先生の本棚は著作でいっぱい。これまでにざっと70冊は書いたそう。
先生の本棚は著作でいっぱい。
これまでにざっと70冊は書いたそう。

 将来について悩んだときは、私が考えた「人生鳥瞰図(じんせいちょうかんず)」を使ってみましょう。「人生鳥瞰図」には、自分の人生を「鳥の視点で見る」という意味があり、「人生の設計図」とも言えるもので、これまでの自分を振り返って、将来進んでいく道を考えようという図なのです。自分の人生において、一番重要なことは「幸せな人生を送る」ということです。しかし、どういうものを幸せと感じるかは、人によって違います。自分にとって「何が幸せか」ということをよく考える、そのためには、「自分をよく知る」ということが大切です。この図を描くことで、生まれてから今まで歩いてきた道、やってきたことを知ることができます。自分史を書くつもりで一つひとつ確認していきましょう。
 この「人生鳥瞰図」は、価値観を見つけるためのパートA(図の左上の部分)を描き、自分の価値観を知った上で、適職を発見するためにパートB(図の右上の部分)へと進んでいきます。
 パートAでは、人生で一番大切にしたいもの=「価値観」を発見します。生まれてから今までを振り返って、「生い立ち」(どんな子供だったか、育ってきた中で得たもの)、「出会い」(影響を受けた出会い、その出会いから得たもの)、「出来事」(大きな影響を受けた出来事、その出来事から得たもの)を書き入れていきます。
 パートBでは、パートAで発見した「価値観」をベースに、「性格」「関心」「能力」を分析し、今の自分像を総合的に理解します。その上で、自分にあった「仕事」を導き出します。「性格」には自分の性格について、「関心」には関心のあることや、これから深めていきたい分野について、「能力」には自分の能力や技術で得意なもの・ことについて書いてください。
 パートAで「価値観」が、パートBで「仕事」が見つかったら、図の下段にある「キャリアデザイン」図の「活動歴」「経験歴」「学習歴」を書き込んで下さい。「活動歴」には学校での委員会活動や部活動の内容、「経験歴」には学外での様々な経験、「学習歴」には身につけた学習の内容について、自分がどの部分に力を入れてきたのか、何をやってきたのかを書きましょう。恋愛や趣味など、「活動歴」「経験歴」「学習歴」に含まれないものの、人生にとって重要な要素は、「キャリアデザイン」の外側の部分に書き込みます。
  注意点は「自分をよく見せようとしないこと」「なるべく短いキーワードを選ぶこと」です。短いキーワードで表せないときは、まず複数のキーワードを挙げてみて、そこから一番ぴったり来るものを選んで下さい。キーワードを選ぶことで、より深く自分のことを考えられるようになります。
 人生鳥瞰図を描き終えたら、まずゆっくり眺めてみましょう。自分がどんな人間なのか、改めて知る部分も多いはずです。


「人生鳥瞰図」の作り方

A価値観発見パート
あなたが人生で一番大切にしたいもの=価値観を発見するための図です。子ども時代を振り返って、生い立ち、出来事、出会いを書き込んでいくことで、そこからあなたの「価値観」を見つけ出します。

B適職発見パート
「価値観」をベースにあなたの性格、関心、能力を分析し、いまの「自分像」を総合的に把握します。その上で、そこから自分に適した仕事を導き出します。既にアルバイト等で働いている場合は、その仕事を書き込みましょう。

Cキャリアデザイン図
今まで、どんな活動や、経験、学習をしてきたかというキャリアの歴史をまとめた図です。キャリアとは、活動歴を中心とした、経験歴、学習歴の総称です。

Dキャリアに収まらないライフデザインの要素
ライフデザインには、キャリア以外の要素もあります。例えば、恋愛、趣味など。キャリアに当てはまらないものは、ここに書き込んでおきます。キャリアデザインと、それ以外のものを合わせてライフデザイン図が完成します。

あなたの「キャリア」をデザインしよう

 「キャリア」についてはいろいろな説がありますが、私は"「仕事歴」を中心とした、「学習歴」と「経験歴」の総称"と考えています。まだ働いていない高校生の皆さんにとって「仕事歴」は、部活での役割や委員会等の「活動歴」と言い換えるといいでしょう。しかし、長い目で人生を見ると、人生の中心は「仕事」です。皆さんは、生涯をかけて「キャリア」をふくらませているということなのです。
 このキャリアをふくらませるということを「キャリアデザイン」と呼んでいます。その「キャリアデザイン」の中心は二つの質問に集約されています。
 まず一つ目は、「あなたは今まで何をしてきましたか?」という質問です。高校生の皆さんであれば、「クラブ活動で全国大会に出ました」「この分野の勉強をしてきました」など、何かやったことを言えないといけません。それは、大したことでなくてもよいのです。「自分はこれをやってきました」と自信を持って言えるかどうかが重要です。重要である理由は、何かをやってきた人でないと、次に何かをやれないと考えられているからです。「これからやります」と言い続ける人は永遠にできないと一緒です。
 もう一つは「あなたはこれから何をしたいですか?」という質問です。これから先、したいことが変わってもかまいません。その時点で何かやりたいことを持っていることが非常に大切になってきます。
 社会人でもこの二つの質問に答えられる人はそう多くありません。受験の面接でも、就職試験でもこの質問を必ず受けることになります。
 この二つの質問を常に自分に問いながら、たった一度の人生を豊かに過ごすためにも、ぜひこの「人生鳥瞰図」を使って、皆さんの進路選択に役立ててください。


「人生鳥瞰図」の作り方


あなたも人生鳥瞰図にチャレンジ

 人生鳥瞰図ワークシート
 (クリックするとPDFファイルが開きます。)


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プロフィール
久恒啓一教授
宮城大学教授 
宮城大学大学院事業構想学研究科長 
昭和25年大分県生まれ
九州大学法学部卒業(クラブ活動は探検部)
昭和48年日本航空株式会社入社、ロンドン空港支店、客室本部労務担当等を経て、本社広報課長、サービス委員会事務局次長を歴任。ビジネスマン時代から「知的生産の技術」研究会(現在はNPO)に所属し著作活動も展開。
日本航空を早期退職し、平成9年4月新設の宮城大学(野田一夫学長)教授に就任。学生とともに成長する教育者、地域とともに歩む研究者、県立大学教授とし ての社会貢献という3つのテーマで活発に活動している。著作や雑誌への寄稿や講演など全国区で活躍する一方、宮城県では多数の審議会・委員会の委員、 NPO法人キャリア開発研究機構理事長、NPO法人知的生産の技術研究会理事長をつとめるなど地域活性化にも関心が深い。(財)日本総合研究所(寺島実郎 理事長)評議員。本年度より中国・吉林大学客員教授を兼務。
久恒啓一図解ウェブ http://hisatune.net/